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死を覚悟して撮る

「主人の遺影の写真を撮ってください」と一週間前に店頭で依頼を受けた。
もうすぐ命がなくなることを宣告されている主人と一緒に遺影の写真が撮りたい。
と奥様が話しに来られた。
今日がその日だった。
とにかく無心になるように努めた。
今日のこの時間が、お二人にとって心地よい時間になるようにと願いながら。
そして、ここに自分がいて、目の前に二人が並んでいる。
ただそれだけのことが、奇跡でもあり大切な時間であるということを確信した。
一枚ずつ、アルバムをめくるように撮影した。
その一枚一枚が、人生の長い時間を振り返っていく行為のように思えた。
お会いして間もないのに、シャッターを切る度にその方の過去を知っていくようで、長く知り合いだったような錯覚を覚えた。
「いい時間を過ごせました」
撮影後にかけてもらった言葉で魔法が解けたように、また今という時間が舞い戻って来る。
死を覚悟して撮る写真。
残されていく奥さんのために、そして自分のために。
お二人にお会いできたことを心から感謝したい。

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